2棟の水平に伸びる切妻屋根とそれを繋ぐ反り屋根が背後の緑豊かな山並みに呼応して美しい景観をつくり出している。外壁の多くは天井までのガラススクリーンで屋根を浮かせ軽快さを、また、軒先には大型のHACO 樋を使用、軒樋の雨は呼び樋と竪樋で地面に導かれるが目立たないように配置されているため、水平性とシャープさを生み出している。それに対してちょっと気になるのが反り屋根の雨仕舞いである。谷部分の処理はいつも問題になる。写真を見る限り樋はない。垂れ流しで雨を視覚化するのは良いと思うが雨が落ちる足元の処理が重要だと思う。

軒先の水平ラインと切妻屋根の対比が端正な形でまとまり、品格のある佇まいとなっている。
内外共に地元の木材で包まれた建築はぬくもりと同時に、凛とした空気感もあり、特に室内は木造の屋根の魅力を存分に感じさせて くれる。どこか襟を正したくなるような空気感はディテールがしっかりしているからだろうか？

軒の深い立派な大屋根だけでも十分に魅力的な建築であるが、よくみると真ん中に斜めにカーブした切り込みがあり、それにより 「牛のツノ」が表現され、飛騨牛を食することができるこの店舗としてのアイデンティティがさらりと組み込まれた点が秀逸である。
屋根の表現としても「勾配」や「重なり」ではなく「切り込み」というのは新しい屋根の可能性を示しているのではないだろうか。

「屋根のある建築作品コンテスト」の中では、他の受賞作品とは一線を画す建築である。この建築の屋根は極めて美しい内部空間のた めに存在しており、ヴォールト天井が生み出す光と影のグラデーションはまさにクライアントが望んだ「洞窟」空間を実現している。 ディテールは細部に至るまで検討しつくされており、その結果として外に飛び出た水平梁とHACO 樋が外観にチャーミングさを与え ている。建築家の優れたデザイン力が存分に発揮された建築である。