雨のみちをデザインする 株式会社タニタハウジングウェア

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ディテール Detail

“はずす”は、深い庇やバルコニーを持つ建築の雨を導く手法です。ここでは大きく2つの手法について取り上げます。一つは雨の処理の基本と言える先端の軒といや側溝から呼び樋により壁面まで導きたてといに接続する雨の処理で、呼び樋をシンプルにスッキリ見せる手法です。もう一つは深い庇を持つフラットルーフの雨の処理です。軒先から内勾配で雨を壁面のたてといや隠蔽樋に導き、樋を前面に出さないことで深い庇の水平性を強調する手法です。

6-1 呼び樋

1.住田町役場(前田建設工業・長谷川建設・中居敬一都市建築設計異業種特定建設共同企業体+近代建築研究所/2014)
スケッチ担当: 佐藤 暖

築50年を経過した庁舎の建て替え計画である。木造2階建て、同町産のスギ材やカラマツ材、そして気仙大工の伝統を継承した技術を使い建物全体が住田町の木のショールームとなるような建物を目指した。
森林・林業日本一の町を目指し、町内産の木材を使った、他に類例を見ない構造の町のシンボルとなる町民自身のための施設として木造庁舎をつくった。その建設に際してはできる限り町内の人びとが組み立てることができるよう配慮された。
スパン21.6mのレンズ型トラス梁を1.8m間隔に立つ外周の柱で支え、水平応力に耐えるためのラチス璧とし、採光を確保しつつ純木造で通常の耐震性能の1.5倍という耐力を確保している。
樋は約80mの平面に9m間隔で設置されている。軒先の軒といからレンズ型の緩やかな曲線にそって導かれた呼び樋は、たてといに接続され足元の雨水桝へ雨水を流す。
レンズ型のトラス梁、1.8m間隔の柱やラチス壁、トラス梁といった線形を多く用いた外装にバランス良く調和し、水平に延びる庇のシャープなラインを乱さない樋である。
樋には、ガリバリウムの金属素材が使用されており、加工しやすく錆びにくいうえ耐久性がある。
また、融雪ヒーターが内蔵され、排水路の凍結防止や雪解け水のスムーズな排水が可能となり、劣化を防ぐよう配慮されている。

2.ザ・リッツ・カールトン京都(日建設計/2014)
スケッチ担当:佐藤 暖

ザ・リッツカールトン京都は、鴨川の二条大橋の畔に立地し、敷地の約130mが川に面しています。かつて平安貴族たちが東山から昇る月を愛でるために別邸を構えたこの場所は、まさに特別な文化継承の地です。
「日本にこれほど魅力的なところがあると言うこと、日本の美は半端なものではないこと、そしてその美の神髄は京都にあること」を訪れるお客様に感じてもらいたいというのが、関係者の方々の共通の想いであったそうです。
その日本の美のひとつに、清潔で凛とした日本の空気感があります。この空気感は、特に建物の外部と内部にまたがる境界領域に多く表れています。細やかな欄干や、コンクリートで作られた薄い軒天井、軒先の反りなどが、微妙な緊張感を保ちつつ構成しています。
妻側は非対称のプロポーションになっており、楼閣建築の趣を出すとともに、水平の庇の重なりが軽快で印象的なファサードをつくりだしています。深い軒先には箱樋が仕込んでありますが、シャープなディテールでほとんど気になりません。そこから手摺りや窓枠と共に数寄屋の特徴である、繊細な直線状の宙に浮いた呼び樋により壁面に内蔵されたたてといにつながっています。

3.高森のいえ(蓑原敬 環境設計研究所/2018)
スケッチ担当:五月女 由佳

人々が集う場において軒先から呼び樋にて、内側に引き込む一般的な納まりでありながら、すっきりと納め、豊かな軒先空間をつくり出しているのが「高森のいえ」です。
平成23年紀伊半島豪雨で大規模な土砂崩れが相次いだ奈良県十津川村で、人口減少と過疎高齢化の問題を解決するため、豪雨災害の被害にあった村民の移住が計画され、住宅と高齢者福祉施設の中間的形態を目指した村営施設です。約5,200平方メートルの敷地に高齢者向け単身者用住居3棟計6戸、高齢者向け2人世帯用住居1棟2戸、子育て世帯用住居1棟1戸、ふれあい交流センターや畑が集結し、計6棟の平屋が広場を取り囲む雁木が接続しています。
 被災後の仮設住宅では常に集まる場が重要です。被災前の住宅では、屋根のある軒下が住民の井戸端会議の場となっており、楽しく暮らせていたという住民の話から、「高森のいえ」も各棟が軒下によって繋がれ、ベンチが置かれ、交流の場が設けられています。人々の交流の場から見られる自然の景色を雨といが阻むことなく建物の内側へ引き込まれ、軒先からはずすことにより、障害のない開放的な井戸端会議の場をつくっています。また引き込むだけではなく、宙で切られた雨といから砂利に注がれるという視覚化された形が、楽しい風景をつくります。

4.みんなの交流館 ならはCANvas(都市建築設計集団/UAPP /2018)
スケッチ担当:五月女 由佳

 東日本大震災の原子力災害により全町避難した自治体の中で、初めて避難指示解除となった福島県楢葉町に建つ復興の拠点施設です。町内外、世代を超え人が集い、出会い、交流する場、復興の象徴、情報や震災の情報発信、そして楢葉町らしさがあり、一人でも誰とでもゆっくりと過ごせる場というコンセプトのもとに住民の想いを取り入れ計画されました。
 地震力に対応しつつ壁を減らすため、構造計画は完全な木造とはせず、柱を鉄骨造、梁及び屋根を木造としたハイブリット構造です。開口部には高さ4mの木製ヘーベシーベ戸を採用し、フルオープンが可能で、内外の境界を曖昧にし、内外一体利用ができます。そうすることで、平面的には四周どの方向にも開くことができ、内と外一体となったイベント開催が可能です。
 屋根は270mmの材を6段に重ねた格子梁で、庇を5m跳ね出しています。樋は浮かした梁の間を通して内側に引き込み、建物に沿わせて落ちるように導き、深い庇ラインをすっきり見せています。住民からの「たくさん木を使う」という意向から築かれた美しい格子梁を抜けて視線から内側に「はずす」つくりになっています。

5.既製の雨樋を使い綺麗な軒先をつくる-1
守谷の家(伊礼 智/2010) スケッチ担当:堀 啓二

アプローチ側に2階から1階まで連続して流れ落ちる深い庇を持つ大屋根が家人を迎えます。大屋根が陰影をつくり出し、ヒューマンでありながらもダイナミックで印象的な家です。大屋根の雨を受ける軒といは、なんと軒先端部から跳ね出しています。この跳ね出しが水平性と軽やかさを生み出しています。軒といの雨は円錐台の枡を持つ呼び樋でたてといに接続され地面に導かれます。たてといは正面を外し、側面に設けられてファサードを乱さず端正なファサードをつくり出しています。既製の雨といを使った、雨のみちの基本である「はずす」の好例です。

6.既製の雨といを使い綺麗な軒先をつくる-2
小さな森の家 i-works 15坪(伊礼 智/2011) スケッチ担当:堀 啓二

軒の出のない切妻の雨のみちです。軒の出がない場合、平面の軒といも壁面で止めて軒といから曲がりをつけずにストレートにたてといを設けて、シンプルに納めます。
この平面のファサードはフルオープンのサッシと戸袋で構成されたシンプルで開放的な構成です。そのため、壁面から少し飛び出した開口部と戸袋が壁面をほぼ覆っているため、前面にたてといを設けることは施工的にも難しく、デザイン的にも邪魔な存在となってしまいます。ここでは軒といの端部を跳ね出し、平面から外して小さな呼び樋で妻面のたてといに導いています。この事例も既製の雨といを使った、雨のみちの基本である「はずす」の好例です。この跳ね出しが、軒の出がなく箱型で単調になりがちなファサードに、日本の屋根が持つ水平性をつくり出しているように見えます。

7.最小限住居ー増沢洵自邸(増沢 洵/1952)
スケッチ担当:堀 啓二

 増沢洵の自邸です。薄い庇が伸びた軽快でシンプルなファサードです。増沢はレーモンドの事務所での経験を生かしたデザインコンセプト、正直さ、単純さ、直裁さ、経済性をこの住宅で表現しています。
 まさにこのコンセプト通り屋根架構がすごい。通常は軒先の桁と棟木に登り梁を掛け渡し母屋を載せ、その上に垂木を掛けます。ここでは登り梁と母屋を省略し桁と棟木に直接垂木を掛け渡し、屋根を構成しつつ3.3尺(約1.0m)のシャープで薄くかつ深い庇を実現しています。垂木が構造材となり、屋根材料を鉄板葺きにすることにより、通常の建物よりも屋根の重量を軽くすることを配慮し、最小限の材料で必要な構造耐力を保っています。この工夫の難点は妻側に庇を出せません。西の開口を考えると庇が欲しいところですが、その結果極限までに薄く納められた深い庇がある軽快でモダンな印象の外観をつくり出しています。
この住宅には玄関がありません。昔の写真を見ると居間に座って靴を履いていました。直接居間から入っていたようです。そのためか、スケッチから分かるように南面の屋根の片側だけに樋がついています。通常はほぼ水平にのびる呼び樋がここでは斜めにのび、まるで屋根を支えているようにも見えます。シャープな外観にひょっこりと現れるこの樋には愛嬌すら感じます。呼び樋をファサードデザインの一部とした好例と言えます。

6-2 内勾配

1.国立博物館 東洋館 (谷口吉郎/1968)
スケッチ担当:堀 啓二

谷口吉郎が設計した国立博物館東洋館は、勾欄付きバルコニー(縁側)、柱、梁、そして水平の軒と木造建築が持っている構成そのものです。日本建築の美しさは軒先の水平性です。遠景であれば大屋根のシルエットが見えますが、近景では水平の軒先のみが感じられます。大屋根が日本建築の特徴で原風景と言えます。軒先の水平性が原風景である大屋根を連想させます。そのため軒先の処理はとても重要で、雨の処理がその美しさに直結します。

谷口は内勾配という単純な発想により、雨を内側に導き登り梁をダブルとしたてといを通し柱の中に隠蔽、雨といが軒先にでない美しい軒の水平性を実現しました。また、軒を支える桁は柱の上でピンで支持されています。そうすることで屋根自体が柱の上に浮いたように見えます。重厚でありながらも水平性が強調され軽快で美しい。

2.東京工業大学70周年記念講堂 (谷口吉郎/1958)
スケッチ担当:堀 啓二

コンクリートとは思えないほど軒の水平ラインが薄く美しい。フラットルーフの庇の軒先を薄く見せる工夫は最も苦労する部分です。

本体の講堂部分は必要な高さを確保したヴォールト屋根で先端の軒といで雨を処理しています。その講堂を囲むように、廊下、待合ホールの低い水平の庇が回っています。庇はコンクリートの片持ちスラブの跳ね出しで、根元が太く応力が少ない先端を細く絞っています。この細さとともに跳ね出しスラブは東洋館と同じで内勾配になっていて、先端に雨といが出ず、美しい軒の水平性を実現しています。また、内勾配にすることで先端にいくに従い庇は跳ね上がり、庇の水平性のシャープさを増しています。コンクリートを最小限まで突き詰めたミニマリズムとも呼べる美しい建築です。

タニタメモ

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