ディテール Detail
基本、雨といはない方が、ファサードは美しくなります。今回取り上げる「おどる」のひとつは、あえて雨といをファサードの主役とし雨とい自体でファサードをつくる手法です。「おどる」のもうひとつは、昔の民家や寺社にあるような雨といをつけず直接流す手法です。滝のように流れる雨そのものが、ファサードをつくります。この章では、雨といと流れる雨がリズミカルなファサードをつくる手法について、見ていきます。
4-1 枡、鎖、ガーゴイルがつくるファサード
雨といの基本は、メンテナンスを考慮すると“露出”だと思います。露出した雨といでリズミカルなファサードをつくり出したのが「パレスサイドビル」です。
「パレスサイドビル」の平面は、床面積の有効率を最大限に上げるため、コアを外部に出し、中廊下の雁行した形をしています。そのため、皇居側から見た長さは180メートル、高さは38メートルという長大なファサードとなりました。このような巨大な壁の外観は、通常、単調で圧迫感のあるものになりがちですが、水平性のルーバーやスラブ、メンテナンスを考慮して分節された垂直に連なる雨といとFIXガラスというふたつの面的な構成で、リズミカルでヒューマンなファサードをつくり出しています。
雨といは各階で分節されていて、ロート状のトップで上から流れ落ちてくる雨を受ける形となっています。雨といを分節すると、詰まった場合、ロート状の部分からオーバーフローするため、問題の箇所をすぐに特定できるというメリットがあります。
アルミ製のロート状の雨受けは、直径396ミリメートル、高さ340ミリメートルの半球をのばしたようなロート状の形状をしています。そこに、アルミの押出し材で細くつくられた雨を縦に流すパイプが垂直性を強調しています。外観を彩るオブジェとも言えるロート状の雨受けの数は、皇居に面するウィングで423個。縦横約3メートルピッチに整然と並ぶ姿は、“雨のみち”を視覚化し、見ていて楽しい動きのあるファサードとなります。
通りに面した9階建ての「コープ共済ビル」のファサード前面には、リングを連ねた鎖とい、円柱を連ねた鎖といなど3700個もの鎖といが、薄いスラブ間をつなぐように設けられています。連なる鎖といは垂直方向のラインを強調させつつ、リズムを感じさせ、雨が降っていない日でもまるで雨とい自体が雨のしずくのようにも見えてきます。
また、鎖といには植物が絡み壁面緑化の役割も果たしています。鎖といは“雨のみち”となり、屋根からの水が鎖といを伝わって植物へ届き、緑のカーテンをつくりだします。鎖といは緑の相乗効果により、いっそう豊かなファサードを演出します。
このように鎖といは単独でも伝統的かつ美しい意匠を生み出す建材でありながら、単に雨水を導くだけでない無数の可能性を持っています。
この「ノートル・ダム教会」が位置するのは、フランス中部ブルゴーニュ地方の玄関口ディジョンです。かつてはブルゴーニュ公国の首都であったこの街には、今なお木骨組の民家や骨董屋が軒を連ねる通りなどもあり、中世の時代の匂いが漂います。
ディジョン駅から15分ほど歩いていくと、狭い道を抜けた先に「ノートル・ダム教会」が目に飛び込んできます。そのファサードには、等間隔にびっしりと並ぶ3段のガーゴイルが。その数は、なんと約50体。
怪物、動物、人間、翼を持ったいくつものガーゴイルが教会の壁から遠くを見つめ、それぞれ独特の仕草で佇んでいます。「ガーゴイル」とは背中にある溝で雨水を流し、口から吐き出す雨といです。雨水が石壁を伝って流れ、壁の彫刻を侵食してしまうことを防ぎます。その一方で、「魔除け」としての役割も持っています。
微笑んでいる顔、険しく何かを見つめる顔、さまざまな顔を持つガーゴイルたちは、雨の日には一斉に口から雨水を吐き出し、雨水の軌跡で荘厳な教会のファサードをつくり出します。
4-2流れる雨がつくるファサード
3章の「うける」にも登場した例です。「牧野富太郎美術館」は、サスティナビリティ(持続性)が、ひとつのテーマになっています。自然と人間が共生している仕組みを壊さずに、持続させていくための工夫が、建物の構造や設備などにも生かされています。
中庭にある水盤は水棲植物の場であるとともに、クーリングの役目も果たしています。
宙で切られた雨といから“雨のみち”が視覚化され、水盤へと導かれます。雨が流れる様はリズムがあり、楽しい風景です。
1400年の歴史を持つ狭山池は、日本最古のダム式ため池で、現在も280万立方メートルの貯水量を誇る大阪府下最大のダムです。平成の改修後、2015年3月には国の史跡に指定されました。
2001年、「大阪府立狭山池博物館」は、狭山池の改修工法や歴史、出土文化財、堤の実物など、日本の土木と治水を時代ごとに展示する土地開発史専門の博物館として、建築家安藤忠雄氏により設計されました。大阪狭山市駅から徒歩12分の場所にある博物館には、開館から150万人以上の来場者が訪れています。
博物館内の屋外部分には、象徴的な水庭があり、上部に貯められた雨水が一時間に一度、流されます。まっすぐ伸びる通路には流れ落ちる水のカーテンがつくられ、まるで滝の裏側にいるような、流れる水に包まれた異空間となっています。このように通常は、人工的な滝がつくられますが、雨の日は流れる雨が滝のように流れ、同じような光景をつくり出します。
タニタメモ
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